鉄吸収の観点から見た『HS-2プロ』の性能評価

フルボ酸鉄

植物が生き残るためには多くの栄養素を必要としています。

なかでも、植物にとって最も重要な栄養素のひとつが鉄です。

ここでは、『HS-2®プロ』の性能評価、特に植物における鉄吸収促進効果について研究した結果をご紹介します。

鉄イオンの存在形態

鉄は酸素やpHの影響を受けやすい

鉄は植物にとって光合成、呼吸、根の成長など、欠くことのできない必須の栄養素です。

加えて、多くの酵素反応において補因子や電子伝達体としても機能しています。

天然の環境下にある鉄は酸化還元されやすい特徴を持ち、酸素があると酸化され三価の鉄イオン(Fe³⁺)に、酸素が無い場合は主に二価の鉄イオン(Fe²⁺)として存在していますが、植物が利用できるのは水に溶解しやすいFe²⁺です。

これに対して水に溶けにくいFe³⁺は沈殿し、独自の輸送ルートを持つイネ科の植物を除いては容易に吸収することができません。

また、鉄はpHにも影響されやすく、アルカリ性が強い土壌においてはFe²⁺ではなくFe³⁺となってしまうため、土壌中の鉄イオンの存在形態が植物の生育に与える影響は計り知れません。

このため、栽培する際は土壌の種類や状態を見極め、鉄欠乏とならないように注意を払う必要があります。

ちなみに海では、植物プランクトンや海藻といった食物連鎖の第一生産者が、海中に溶存する鉄を使って光合成をしています。

ところが、海水は弱アルカリ性であるため鉄が酸化されやすく、Fe³⁺となって沈殿してしまうため利用することが困難なのです。

海藻が消失する磯焼けや赤潮などの発生は、このような鉄不足に陥った状態が長く続くことも原因のひとつとされています。

赤潮が発生した海

鉄欠乏症状の改善と土壌のpH調整

鉄が欠乏すると葉色素(クロロフィル)の濃度が低下し、葉脈は緑色のままなのに葉が先端から黄色~白っぽく変色する症状(葉脈間クロロシス)が現れます。

この状態になると光合成や呼吸が十分に行われなくなってしまい、植物の生長に影響を及ぼします。

鉄欠乏によりクロロシスが発現したレモン

アルカリ性土壌のpHを下げて鉄欠乏を改善するには、硫酸アンモニウムといった酸性肥料や鉄を吸収しやすい形で配合したEDTA鉄(キレート鉄)、有機物を活用した土壌改良剤の施用で調整します。

しかし、土壌のpHを下げるということは上げるのに比べ難しく、栄養バランスが崩れたり酸性に傾きすぎたりすることもあるため慎重に行わなくてはなりません。

育てる植物や土壌の状態を見ながらpHを至適に保ち、鉄欠乏に陥らないよう、すでになってしまっている場合には症状を改善する効果的な方法を見つけましょう。

『HS-2®プロ』の特性

『HS-2®プロ』は文献やこれまで行ってきたさまざまな生育試験から、鉄の吸収を促進する作用があり、これには『HS-2®プロ』に含まれる腐植物質(フミン酸、フルボ酸)が持つキレート力(錯体化)によるところが大きいと考えられています。

腐植物質は固有の分子構造を持たず、その由来や環境条件などによっても構造や特性が異なります。

そこで、針葉樹の間伐材を完熟発酵させた堆肥から抽出する『HS-2®プロ』は亜炭や泥炭に由来する一般的なものと比べてどのような違いがあるのか、神戸大学大学院海事科学研究科にご協力いただき行った評価試験の結果を踏まえてご紹介します。

なお、実験には比較用として3社のフミン酸(それぞれA社、B社、C社とする)に加え、日本腐植学会提供のフミン酸、フルボ酸標準試料(以下、std)を使用しました。

実験結果 全酸度、フェノール性水酸基量の測定(酸塩基滴定)

全酸度とは、化学物質中のカルボキシ基(-COOH)とフェノール性水酸基(-OH)の総量を指します。

これらはいずれも酸性を示す官能基であり、水溶液中ではプロトン(水素イオン)を放出して水素イオン濃度を増加させるため、全酸度が高い化学物質は高い酸性を示します。

また、フェノール性水酸基は金属イオンと錯体を形成する力(キレート力)、特に鉄と錯体化する能力に長けるため、鉄吸収の指標としてその含有量が気になるところです。

実験結果 全酸度の解析結果

『HS-2®プロ』はA社、B社のフミン酸、およびフミン酸の標準試料と比較して全酸度が高い値を示し、より多くの酸性基(-COOH、-OH)が含まれていることがわかりました。

他のフミン酸よりも『HS-2®プロ』の方が高い値となったこの結果について、『HS-2®プロ』にはフミン酸に比べ高い酸度を示すフルボ酸も一緒に含有していることによるものではないかと推察しました。

実験結果 フェノール性水酸基量の測定結果

全酸度のうち、フェノール性水酸基はどの位含まれているのか。

この定量には没食子酸を用い、ここから算出した換算値を測定値としました。

誤差も多いため厳密に比較することが難しいことを考慮しなくてはなりませんが、『HS-2®プロ』は他社に比べ相対的にフェノール性水酸基(-OH)が多いことがわかりました。

実験結果 元素分析

次に、炭素(C)、水素(H)、窒素(N)、硫黄(S)、酸素(O)の分析を行いました。

C、H、N、Oは植物の細胞組織の主要な成分元素です。

また、Sは、適当量がない環境下では生物が存在できない重要な元素であること、さらにNについては、金属イオンとの錯体を生成する際になくてはならない元素であるため、これらの配合割合を分析することには意義があります。

分析(質量%)の結果、『HS-2­®プロ』は、Nの含有量が比較的多いことがわかりました。

Nは金属イオンとの錯生成(キレート効果)に加え、タンパク質、核酸、クロロフィル、ビタミン、ホルモンなどの生命活動に必要な生体分子を合成する構成要素のひとつとして、植物の生長に貢献しています。

実験結果 鉄イオンとの錯生成の評価(フミン酸鉄、フルボ酸鉄の形成)

『HS-2®プロ』におけるフェノール性水酸基やNの含有量が比較的多いという結果を受け、金属イオン、とくに水に不溶で植物に吸収されにくい3価の鉄イオン(Fe3+)との錯生成について紫外可視吸光度を用い錯生成定数(錯体の出来やすさ、キレートのしやすさ)を観察しました。

紫外線可視吸収測定は物質が光を吸収する性質を利用し、その物質の濃度や特性を分析する手法です。

物質に紫外線または可視光線を照射すると吸収され、物質の分子構造や濃度に応じて吸収スペクトルと呼ばれる波長の吸収パターンが出現します。

今回、『HS-2®プロ』とフミン酸stdに鉄を添加し、その量に対する吸光度の変化を425nmで観察したところ、フミン酸stdに比べ『HS-2®プロ』の方がより3価の鉄イオン(Fe3+)と錯体を作りやすい(キレートしやすい)ことがわかりました。

これはフェノール性水酸基の量やNの含有量に由来するのではないかと推察しています。

実験結果 分子量分布

次に『HS-2®プロ』の分子量について、遠心式限外濾過による分画後、紫外可視分光光度計を用いて吸光度を測定し評価しました。

その結果、『HS-2®プロ』は100kDa以上という大きな分子が6割をしめていることがわかりました。

続いて、ゲル濾過クロマトグラフィーにて『HS-2®プロ』の大まかな分子量の分布を確認しましたところ、150kDa~970kDaの間に平均分子量を持つことがわかりました。

この試験では、1000Da以下となるフルボ酸を示す低分子の存在も確認していたため、こうした低分子量物質の分析に優れたTOF-MS(Time of Flight-Mass Spectrometry)により測定したところ、分子量300付近のものが集中的に比較的多く含有されていることが判明しました。

腐植物質のうち、一般にフミン酸は分子量が大きく、フルボ酸は小さい。

また、3500Da以下のものは細胞内に取り込まれて代謝活動に積極的に関与し、それ以上の分子量を持つものは細胞膜に作用して栄養の取り込みを促進したり、ホルモン様物質として働き植物の生長を促進させたりすることがわかっています
※Serenella Nardi et al. Physiological effects of humic substances on higher plants. Soil Biology & Biochemistry. 34(2002);1527-1536.

『HS-2®プロ』の分子量を測定した結果を総合すると、10%程度が細胞膜を容易に通過して細胞内に浸透し、それ以外は細胞膜に作用する可能性が示唆されました。

鉄吸収が阻害される状況下での『HS-2®プロ』の効果

フミン酸鉄、フルボ酸鉄を形成

種類による違いはありますが、野菜や果物の栽培には弱酸性~中性の土壌が至適とされています。

ところが、温暖で多湿な日本では土壌微生物の活動が活性化し、呼吸によって二酸化炭素を多く排出することに加え、降水量も多く、大気中の二酸化炭素が土壌に溶けたり、土壌中のアルカリ性物質が流れ出したりして酸性になりやすいのです。

また、化成肥料の多用や作物を作り続けることでも土壌は酸性へと傾きます。このため、土壌を中和させる目的でpH調整剤を使うと、時としてアルカリ性に傾き過ぎてしまうという現象が発生することがあります。

アルカリ性の土壌では鉄がFe3+として存在しているため、鉄の吸収が阻害されて植物の生長に影響を及ぼします。

こうした場面でも『HS-2®プロ』を使用すると、吸収されにくいFe³⁺と錯体化して「フミン酸鉄」「フルボ酸鉄」を形成することで、土壌のコンディションに左右されずとも鉄吸収が可能となることがわかりました。

なお、錯体化は鉄をはじめミネラルの吸収を促進するだけではなく、重金属や放射性物質といった有害物質とも錯生成し、毒性を減らしたり排出させたりする働きも兼ね備えています。

まとめ

ここ数十年、腐植物質が植物の生長や栄養、代謝に及ぼす影響は多くの研究や文献によって導かれてきました。

さまざまな由来(起源)を持つ腐植物質のなかでも、ミズゴケ泥炭から水抽出、精製したフミン酸と鉄の錯体化によって得られた複合体が植物に取り込まれると、他の天然キレート剤よりも多くの鉄を蓄積でき、葉への高い鉄移行を示すことに加え、遺伝子の発現にも影響を与えるとした文献もあり、同じく水抽出した『HS-2®プロ』にも鉄栄養の供給源としての期待が高まります。
※Laura Zanin et al. Humic Substances Contribute to Plant Iron Nutrition Acting as Chelators and Biostimulants. Plant Nutrition. 10(2019);675

日本の土壌は多くが比較的酸性に近い状態であるのに対し、世界を見てみると、およそ1/3は鉄の吸収に影響を及ぼす、農耕に適さないアルカリ性土壌が占めています。

このような農耕に不向きな土壌に存在する水に溶けにくいFe³⁺がフミン酸鉄、フルボ酸鉄となって植物の根から吸収されるようになれば農耕地としての利用が可能となります。

『HS-2®プロ』のFe³⁺に対する優れたキレート力は、不良土壌における農業の発展を助け、ひいては食糧生産に貢献する力を秘めています。