フルボ酸鉄とは

フルボ酸鉄

フルボ酸が持つ機能の1つに「キレート力(掴む力)」があります。

この力によって鉄を掴んだ化合物が「フルボ酸鉄」です。

キレートの中でも、金属イオンを取り囲むようにして結合した構造を「錯体」と呼びますが、フルボ酸鉄はこの錯体を形成しています。

同様にフミン酸も鉄を錯体化させることが出来、これを「フミン酸鉄」といいます。

フルボ酸鉄は水産業、農業において大変重要な役割を担うほか、水質環境の分野でも注目されています。

ここではフルボ酸鉄(フミン酸鉄も含む)の持つ効果や作り方をはじめ、環境への影響についてご紹介します。

フルボ酸鉄の効果

鉄が吸収しやすくなる

鉄は、ほぼ全ての生物にとって必要ですが、特に植物や植物性プランクトンといった一次生産者にとっては、なくてはならない栄養素です。

鉄はイオン化(電子を帯びた状態)し、土壌や水に溶けた状態でないと吸収されません。

しかし、酸素に触れるとすぐに酸化して結晶化し、沈殿してしまうという特徴があります。

鉄は普遍的に存在してはいるのですが、ほとんどが結晶化していて、吸収しやすい形に変換させる機能が備わっている一部の植物を除き、簡単には吸収することが出来ません。

このように、鉄は大切でありながらも吸収しにくいミネラルの1つで、欠乏すると、植物は葉が黄色くなり、やがて枯れてしまいます。

こうした問題を解決するのがフルボ酸鉄です。

森で作られるフルボ酸(フミン酸も含む)が土の中に含まれる鉄をキレート(掴む)すると錯体化し、フルボ酸鉄(フミン酸鉄含む)となって地下水や河川に流れ出して沈殿することなく移動します。

やがてその水を利用する農作物、海中の植物プランクトンや海藻に鉄として吸収されることとなります。

鉄単体では難しかった吸収が、フルボ酸やフミン酸の力によって可能になる。この働きは海の生物にとって大きな意味を持っています。

海底には鉄がたくさんあるにもかかわらず、水に溶けない状態で沈殿しているため、海水中の鉄不足は深刻化しています。

このことは、海藻が著しく減少する「磯焼け」の原因にもなっているとされています。

なお、フルボ酸やフミン酸は鉄だけではなく、さまざまなミネラルを錯体化させますが、こうしたミネラルが海へと流れつくよう、河川の上流では植林活動を通して河口の生態系を取り戻す取り組みも行われはじめています。

ここで、鉄がフルボ酸鉄やフミン酸鉄になることによって、より吸収されやすくなるということを裏付けた試験をご紹介します。

近年では年間を通して食べられる野菜も多く、ハウス栽培や化学肥料の多用なども影響してか、旬の時期以外では栄養素の含有量が減ってきているというような指摘もあるようです。

この試験は、一般的に鉄が多い野菜として知られる「ほうれん草」による鉄吸収の能力を調べたものです。

種から栽培したほうれん草の収穫時における鉄分の重量を分析

結果を見ると、②は鉄をより吸収させるために鉄剤を散布したにもかかわらず、最も低い吸収率となっています。

これに対し、水溶性のフミン酸・フルボ酸(「HS-2」)を散布した③は、コントロールの①と比べ約1.5倍も吸収していました。

そもそも土壌には鉄が豊富に含まれています。

しかし鉄をはじめとするミネラルは、同じもの同士が引き付け合って結晶化するという性質があります。

こうして結晶化した金属類は沈殿し、植物が吸収出来ない形となってしまいます。

これが②の結果です。

一方、③は散布したフミン酸・フルボ酸水溶液が鉄をキレートして錯体化したことでフミン酸鉄・フルボ酸鉄となり、植物が吸収出来る鉄へと変化したことを示しています。

光合成をスムーズにする

食物連鎖の第一段階である一次生産者は太陽の光を受けて光合成を行い、生命活動を維持していますが、二酸化炭素とともに光合成のカギを握るのが「クロロフィル(葉緑素)」という緑色の色素です。

クロロフィルは葉にある窒素を使って作られますが、この過程で鉄が必要となります。

このため、鉄が欠乏するとクロロフィルも減少し、葉が黄色っぽく変色するだけではなく、光合成も十分に行えなくなってしまうのです。

しかし、鉄は水溶化した状態でないと吸収されません。そこで活躍するのがフルボ酸鉄です。錯体化することで吸収しやすい形に変化したフルボ酸鉄が植物の鉄不足を補い、光合成をスムーズにします。

さてここで、場面を海に移してみましょう。

一次生産者である植物プランクトンと海藻類は光合成によってエネルギーを生み出しています。

ところが、海中は土壌に比べると溶存する鉄の量がはるかに少ないため、地下水や河川によって運ばれるフルボ酸鉄やフミン酸鉄ながなければ光合成が出来なくなり、その数は減少してしまいます。

食物連鎖の根底を担う一次生産者の減少は、生態系にも大きな影響を及ぼしかねません。

このような理由からも、フルボ酸鉄は欠かせない存在なのです。

海洋生物での試験では、フルボ酸鉄がコンブの生長を促進するという報告もあります。

参考論文

スラグと腐植物質による磯焼け回復に関する研究

恵みをもたらす大地、川、海を維持するためには、豊かな森を育てることが大切であるという意味がここにあります。

すべての命は森にゆだねられ、それをつなぐ役割を担うのが、植物の最終分解物のフルボ酸・フミン酸というわけです。

フルボ酸鉄の化学式

フルボ酸鉄を構成するフルボ酸は、フミン酸も同様に、お酢の主成分である「酢酸」やビタミンCとして働く「アスコルビン酸」などのような単一の物質ではありません。

多くの研究者によってその化学構造を解明するアプローチがなされてきましたが多様性があるため、現在では平均的なモデルがあるのみで、明確にはなっていません。

このため、フルボ酸鉄の化学式には決まったものはないのです。

そこで、腐植物質であるフルボ酸やフミン酸がどのように鉄をキレート(掴む)しているかを簡単に模した図で説明します。

フルボ酸やフミン酸には、物理的、化学的な性質を同じくする「官能基」と呼ばれる特定の構造が数多く備わっています。その中でもキレートに関わってくるのが「カルボキシ基(‐COOH)」と「フェノール性水酸基(‐OH)」です。

この2つの官能基に共通する水素(H)は非常に弱いつながりのために外れやすく、2個以上の水素が外れた部分に鉄イオン(Fe2+)が結合します。

この状態をキレートと言い、フルボ酸にキレートしたら「フルボ酸鉄」、フミン酸の場合を「フミン酸鉄」と呼びます。

フルボ酸鉄の化学式の「キレート模式図」

なお、フルボ酸・フミン酸は鉄に限らず、さまざまなミネラルを掴む力を持っていますが、自然の中ではフミン酸の量の方が圧倒的に多いため、キレート効果によってもたらされる影響はフミン酸の方が多いのではないかと思われます。

フルボ酸鉄の作り方

ここからはフルボ酸鉄(フミン酸鉄も含む)の簡単で安全な作り方をご紹介します。

まず、ホームセンターなどで園芸用の完熟した腐葉土(できるだけ黒いものがよい)もしくは植物性の完熟堆肥(木のチップだけを原料としたものなど)を用意してください。

完熟発酵させた樹木
完全堆肥

用意するもの

  1. 腐葉土または完熟堆肥(上記)
  2. 「1」の腐葉土または堆肥を包む布(あとでフィルターにかけなくてもよいので便利)
  3. 鉄クギ(ステンレスのクギではなく錆びる鉄クギ)
  4. 大きなバケツか鍋
  5. 熱湯

手順

  1. 腐葉土または堆肥を布で包む
  2. バケツに鉄クギを5~6本入れる
  3. 鉄クギの入った「2」のバケツに、布で包んだ「1」入れる
  4. 「3」のバケツに、熱湯を8分目まで入れる
  5. そのまま2日ほど放置したら、布に入った堆肥の水分を絞り、クギを取り出す

茶色い水になっていればフルボ酸鉄(フミン酸鉄含む)の水溶液の出来上がり

※使用した腐葉土または堆肥には、鉄がキレートされたフルボ酸、フミン酸が残っていますので、捨てずに庭やプランターなどに撒いてください。

※鉄クギが手に入らない場合は、清掃などで使うスチールウール(鉄製で微細なもの)でも大丈夫です。
表面積が大きいため、より反応しやすくなります。

スチールウール
スチールウール

ただし、この方法でできるフルボ酸鉄やフミン酸鉄の水溶液は濃度がかなり低いです。

濃度の濃いフルボ酸鉄・フミン酸鉄水溶液を作る場合には、加熱して煮出す方法がおすすめです。

沸騰してから1時間くらい弱火で加熱を続ければ、上記の方法よりもさらに濃いものが出来上がります(茶色の濃さが濃度の濃さです)。

この他、水酸化ナトリウム(NaOH)と塩酸(HCl)を使う方法もあります。

この方法では高濃度のフルボ酸鉄、フミン酸鉄の水溶液を作ることが出来ますが、水酸化ナトリウムも塩酸も劇物に指定されており、大変危険なため一般的に行われるものではありません。

ヘドロ、水質、底質の浄化

水質が悪化する原因の1つに「ヘドロ」があります。

ヘドロは河川や湖沼、河口など水の流れが穏やかな底部に沈殿する、有機物を多く含んだやわらかい泥です。

ヘドロが出来る要因は生活排水などから出る「リン」や「窒素」によって大量に発生した植物プランクトンの死骸です。

通常はバクテリア(微生物)が酸素を使って分解するのですが、死骸の量が多すぎると処理が間に合わずに堆積します。

加えて、酸素が不十分になると腐敗が進み、有毒な物質が発生して周囲の生態系を悪化させてしまうのです。

このような問題に対し、鉄イオン(Fe2+)を用いてヘドロの分解を促進させるという研究があります。

フルボ酸鉄やフミン酸鉄は、酸化によって結晶化してしまう鉄イオンの欠点を補うとして注目されていますが、このフルボ酸鉄を使用した浄化効果に関する結果をご紹介します。

九州の北部に位置する伊万里湾は、天然記念物「カブトガニ」の生息地です。

しかし、閉塞性が強く、堆積したヘドロが深刻な問題となっています。

カブトガニ
カブトガニ

この場所にフルボ酸鉄を入れた資材を設置したところ、その周辺にあるヘドロが浄化され、カブトガニのエサとなるゴカイをはじめ、数種類の生物が見られるようになりました。

これはフルボ酸鉄がヘドロを分化したことによる効果ではないかとしています。

参考論文

フルボ酸鉄資材を用いた底泥浄化に関する現地実験―伊万里湾における浄化の試み

このようにヘドロを分解し水質を改善するフルボ酸鉄(フミン酸鉄も含む)ですが、フルボ酸、フミン酸自体は分解されることはありませんので、たどり着いた場所に棲む生物にさまざまな作用を与えることとなります。

海、河川との関係

海藻が繁殖する沿岸部で発生する「磯焼け」が大きな問題となっています。

磯焼けは海藻が著しく減少したり消失したりして、それらをエサとする貝類や産卵に利用する魚たちに壊滅的なダメージを与える現象です。

海水温の上昇や海水の富栄養化など、原因は1つではありませんが、河川からもたらされる腐植物質(フルボ酸、フミン酸)も影響しています。

海と河川の関係は河川の背後にある森林に左右され、ここで作られるフルボ酸・フミン酸が地中にある多くのミネラルを掴み(キレート)、川の中を流れながら海へと到達します。

なかでもフルボ酸鉄、フミン酸鉄は食物連鎖の底部にある海藻や植物プランクトンの成育に大きく貢献していて、磯焼けの回復効果が期待されています。

暖流と寒流がぶつかり、世界三大漁場の1つとされる岩手県三陸の金華山沖は、豊かな森と大きな川を有し、フルボ酸をはじめ森のミネラルがたっぷりと海に注がれています。

その証拠に、三陸方面の海は青色ではなく、やや緑色っぽいイメージを抱きませんか。

これは植物プランクトンや海藻が持つクロロフィルの色を反映しているからではないかともされていますが、利用できる鉄(フルボ酸鉄やフミン酸鉄)が海水中に十分存在していることも影響していると思われます。

このように河川は森からの恵みを運ぶパイプとなって、海を豊かに育んでいるのです。

シリカ資材

シリカ(Silicon)とは、地球上で酸素に次いで多い地殻の主要構成物質である「ケイ素」と酸素があわさって出来た化合物「二酸化ケイ素(SiO2)」のことを指します。

乾燥剤としておなじみの「シリカゲル」の「シリカ」も二酸化ケイ素から作られています。

ちなみに、現代社会において欠かせない「シリコーン(シリコン)」はケイ素を基に作られますが、天然には存在せず、シリカの英語読みの「Silicon(シリコン)」とは異なります。

二酸化ケイ素は自然の中では結晶化した状態にあり、鉱物の石英や水晶として存在しています。

ケイ素としての埋蔵量は豊富で、その利用用途は多岐にわたります。

石英
石英

ケイ素はこうした鉱物に河川の水や雨水などがあたり、自然風化作用によって流れ出し、河川に溶存して陸から海へと供給されていきますが、植物は「オルトケイ酸(H4SiO4)」として土壌に溶出された状態を根から吸収しています。

ケイ素は必須栄養ではありませんが、植物の食物繊維の形成に関わる大切なミネラルです。

環境を整えエサを増やす

海の場合、海洋生態系の主要な一次生産者となる植物プランクトンのうち、珪藻と呼ばれる藻類は海の牧草とも称されていますが、ケイ素がなくては生きられません。

近年はダム建設などで停滞する水域が増えたことも影響してか、可溶化したケイ素の量が減少傾向にあるようです。

ケイ素が減少してしまうと珪藻も減り、ケイ素を必要としない別の藻類が増加して赤潮が発生するなど、水質悪化の原因になるとも言われています。

有明海の干潟
有明海の干潟

特に流れが穏やかな河口や干潟、入り組んだ湾ではヘドロの堆積によって環境が変化すると、そこに棲む生物の個体数や種類に大きな影響を及ぼすことになります。

フルボ酸鉄によるヘドロ分解、浄化能はすでに研究が進んでいますが、これにシリカを加えた「フルボ酸鉄シリカ資材」を用いた実験結果がありますので、簡単にご紹介します。

ヘドロなどによる底質環境の悪化によって大きなダメージを受けるのが、二枚貝をはじめとする底生生物です。

アサリを例にとると、近年では収穫量が激減しています。

水温の上昇など、原因は1つではありませんが、二枚貝は水質の浄化能が高く、こうした生物の回復は海の再生にもつながります。

干潟にフルボ酸鉄シリカ資材を設置した実験では、底泥の分解反応が活発になり、ヘドロ物質が除去されたとしています。

参考論文

有明海再生に向けたフルボ酸鉄シリカ資材を用いた底泥浄化に関する実証実験

別の実験では、フルボ酸鉄シリカ資材を使用したところ珪藻類が増え、とりわけアサリのエサとなる種類が多く確認されたとしています。

また加えて、アサリの死亡率も減少していました。

これは、フルボ酸鉄だけではなくシリカを加えることで、シリカを必要とする珪藻類の増殖を促したこと、アサリが活動しやすい環境が整った結果ではないかと考えられます。

参考論文

マイクロコズムを用いたフルボ酸鉄シリカ資材によるヘドロ浄化実証実験

まとめ

鉄は、ほぼ全ての生物にとって必要なミネラルであるにもかかわらず、酸化によって結晶化し沈殿してしまうため、吸収されにくいという難点があります。

森の中で作られる腐植物質であるフルボ酸やフミン酸は、ミネラルを掴む手(官能基)によって鉄をキレートし、フルボ酸鉄、フミン酸鉄とすることで吸収されやすい形に変化させることを可能にします。

こうしたフルボ酸鉄、フミン酸鉄は植物や植物プランクトンの光合成をスムーズにして食物連鎖を根底から支えたり、ヘドロを分解して水質を改善したりするなど、水生生物たちの生活環境を整える効果が期待されています。

フルボ酸鉄、フミン酸鉄は河川が重要な導線となって森から海へと運ばれ、生物の多様性に関与しています。

このため、フルボ酸・フミン酸が生まれる森を豊かに保つことは海の生態系を守ることにもつながっているのです。

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